アベマTVで名人戦第6局を流しながら原稿書き。豊島名人と渡辺2冠という、将棋界のツートップが相まみえる名人戦で、しかもこの第6局で結着がつくかもしれないという、ある意味では将棋界最高の勝負の場にもかかわらず、1日目は解説がつかない。二人は淡々と無言のまま時折りうめきともため息にも聞こえる声なき声をあげながら一手一手を静かに指し続けている。衣擦れと扇子を鳴らす音だけが響く。
一年の将棋界の白眉とも言える一局。なのに解説がついていないのは不思議だ。僕は藤井棋聖ファンだが、将棋界のファンでもあるので釈然としない、というか、ちょっとだけ納得がいかない。コスト的な問題もあるとは思うし、ネット中継はまだ試行錯誤の局面でもあるので仕方のないことかもしれないが、将棋連盟として独自に解説を付けてもいいのでは、などと思ってしまう。名人戦の価値を一番分かっているのはプロ棋士なのだから。
ただ、解説がないことでいい面もある。無言のまま将棋盤を挟みこんこんと何時間も考え続ける二人が見られる。こういう無言の対峙は将棋指しみんながいつもやっていることで、彼らにとっては日常だ。ぼくが真摯な“観る将”でいるためには、こういう静かなやり取りをじっくり味わい、共有することが重要なんだろうと思う。
それに、盤面に集中する二人の姿を見て、わが身を反省するいい機会でもある。二人には到底及ばないのは当たり前だが、曲がりなりにもプロであるならば少しでもそれに近く原稿に集中しなくちゃいけない。ブログ執筆はちょっと息抜きとして許してもらって……。そういう、仕事というものを深く考えさせられるいい機会と思えば1日目の解説はないほうがいいのかもしれない。